音楽監督メッセージ

今年度(2025年)、アンサンブル・ノマドは『まなざし あるいは差異の煌めき』を年間テーマに掲げ、3つのプログラムを用意しました。

1回目はメンバーである2人の打楽器奏者と2人のピアニストに焦点をあて、ここ約80年間に作曲された国も年代も異なる6曲のバラエティに富んだプログラムを作りました。限られた編成にまなざしを向け、リズムに特化したさまざまな差異の煌めきを楽しんでください。2回目は現在活躍中の作曲家による、多くの日本初演作品を含むプログラムをつくりました。ゲストには、2回目の出演となるメキシコのギタリスト、パブロ・カ゚リバイと尺八の黒田鈴尊を迎えて、これまでノマドで何度も演奏してきた作曲家エベルト・バスケスのギターと尺八という東西の古典的楽器による二重協奏曲の初演を行います。またパブロ・がリバイとノマドのクラリネット奏者菊地秀夫のデュもたのしみのひとつです。多様な編成へのまなざしを通し、そこから生まれる精妙な差異を楽しんでください。3回目は、定期演奏会では2018年の『出島』以来7年振りとなる室内オペラを上演します。作曲者はナチスから「頽廃音楽」のレッテルを貼られ遂には46才の若さでアウシュビッツ収容所の犠牲となったヴィクトル・ウルマンです。今回上演するオペラ『アトランティスの皇帝』はその収容所の中で作曲されたそうですが、際どい風刺をきかせた問題作であると同時に作曲当時巷間に溢れていたあろう大衆音楽なども効果的に使用した聴きどころの多い作品です。歴史の大きな転回点に作曲家が生命を賭けて生み出す作品があります。このオペラもそうでした。そのような作品へ向けるまなざしは芸術とは何かを問う私達後世の人間への試金石でもあります。芸術作品としても素晴らしいオペラを一緒に味わい尽くしましょう。

今年度のノマドも、普段見落としがちな貴重な作品にまなざしを向け、振幅の大きな差異を尊重し楽しむプログラムを、と準備しました。どうか1つでも多くのコンサートにいらしてください。         佐藤 紀雄