音楽監督メッセージ

アンサンブル・ノマド結成20周年に寄せて(2017年)

 

毎回楽しみながら目前の曲を夢中に演奏し続けているうちに、気付いたら20年が経っていたと言うのが20周年を迎えた最も正直な感想である。

20年間に行った演奏会は定期演奏会を含めて200回を越え、演奏した曲数は800以上に達した。海外公演は11回を数え、訪れた国は9ヵ国。海外公演は招かれて演奏しただけに終わらず、その後も各地の作曲家たちと継続的な交流がたもたれ、その成果は多くのCDや定期演奏会のプログラムに色濃く反映されてきた。楽譜の紙面を透かして見える作曲家達との交流から得た、言葉には出来ない感情は必ず私たちの演奏に様々なかたちで現れているはずである。

また国内外で行ってきた様々な場所でのアウトリーチの中で行った柔軟な対応と工夫は、個々のメンバーの個性とノマドの幅広いレパートリーの蓄積なしにはあり得ない内容であった。アウトリーチ企画がプライベートな場で行われるために一般の方達に立ち合って頂けないのが残念に思うほど感動させられて来た。ノマドにとってはコンサート同様重要な活動の柱であり、これからも積極的に続けていきたい。

定期演奏会では毎年のテーマと各回毎のサブタイトルが重なりあいながらプログラムの内容を示唆して来た。添えられた言葉は大体具体的な内容を表すが、時には演奏される曲との関係があやふやで抽象的な場合もある。どちらの場合も、個々の曲の内容と言葉はぴったりと一致するものではない。それは言葉の限界でもなければ、音楽表現の限界でもない。どちらからともない問い掛けのように思って貰えたらよい、というのが私の意図である。聴衆に否定する余地を与えないほど美辞麗句でコンサートを飾りまくるより遥かに健全ではないだろうか。ノマドの定期演奏会での曲間や終演後に、それらの言葉によって多様な想いや思考に遊ぶきっかけになればと思っている。

これまでに行ったノマド定期演奏会は、現代音楽を世界の音楽史という風景の中に置いて、その放つ光りの反射する様の差異に着目してきた。更にその音楽風景は音楽や芸術の場で孤立するのではなく、音楽風景が向かう先に控える社会と結ばれてゆくのを願っている。

私の手元にある無尽蔵の作品目録は世界中から寄せられる思いもよらない世界を表現する作品によってつねに更新され続けている。これからも様々な風景が描かれていくのをメンバーと一緒に楽しんでいただけますように。

 

佐藤 紀雄